Q8 足のむくみの新しい治療の考え方(総合診療的アプローチ)

神奈川新聞「教えて!ドクターQ&A」2019.11.16掲載

Q:60歳女性です。2年前、右の膝を痛めました。それ以来、両足がむくみだし、いろいろな病院やクリニックにかかってみましたが、「血管に問題はない、治療は圧迫しかない」といわれました。いったい足に何が起きているのでしょうか。

 

A: 足のむくみの原因は、多岐にわたります。心臓、肝臓、甲状腺、子宮、血栓、静脈瘤、リンパ浮腫など。血管外科、内分泌内科、循環器内科、形成外科、婦人科といろいろな診療科の垣根を越えて広がっています。血管だけみていても、分からないことも多いのです。それは、もちろん人間の体では血管以外の多くの器官、システムも影響し合っているからです。専門細分化が進んだシステムの中では、ときに迷宮に迷い込んでしまうこともあります。

 総合診療という比較的新しいカテゴリーがあります。いろいろな科の枠組みにとらわれず、根本の症状からアプローチしていく診療方法です。病変を、既存のこだわりから離れてよく観察していくことから始まります。足のむくみを超音波で丁寧に観察していくと静脈に血栓も逆流もなく、拍動性の激しい流れが見えることがあります。この病態には、どうやら動静脈瘻は関係しているらしいという学会報告が最近散見されます。動静脈瘻とは、動脈と静脈をつなぐ細いトンネルです。生理的に備わっているもので、けがや手術、高血圧、糖尿、甲状腺疾患など、なんらかの刺激やストレスにより拡張し、動脈の血流が静脈へと急激に流入し、静脈の血流が川の氾濫のように増します。静脈の血管壁は元来薄いので、静脈壁の周囲ににじみ出しによるむくみや炎症が生じます。また、血管拡張により逆流防止弁の距離が届かなくなり逆流現象が生じたりもします。この段階が下肢静脈瘤です。下肢静脈瘤も動静脈瘻のさまざまな表現型のひとつなのかもしれません。

 治療は、まず原因となる背景の病気(血圧やけがなど)をしっかりと総合診療的に見極め、コントロールしていくことが第一歩です。血管だけにとらわれることなく、全体をよく見ていくのです。次に、局所的に下肢への包帯やストッキングによる圧迫治療となります。これに加えて、静脈血管内の過剰な流れやにじみ出しをコントロールすることも重要です。もともとじんましんやアレルギーに効く内服薬がこの病態に有効なことが分かっており、臨床現場ではよく使われます。さらに、ある程度以上の激しい流れは、内服薬や圧迫では抑えきれず静脈内カテーテルのレーザー治療が有効なこともあります。

 こうした、総合診療的なアプローチ、超音波でのより細かい検査、カテーテル手術などが今後むくみの治療の新しい選択肢の一つになっていく可能性があります。


村山 剛也 (医療法人社団慶博会 理事長)

横浜市出身。1996(平成8)年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学外科、東京都済生会中央病院外科、ハーバード大学医学部リサーチフェローを経て、現在医療法人社団慶博会理事長。「日々できるだけ多くの方の診療に現場で臨むことが、自分のミッションだと思ってます」。2018年アメリカ静脈学会(American College ofPhlebology)にてAbstractGrant Winner賞(特別賞)を受賞。