Q11 下肢静脈瘤の痛みと新しい治療(グルー治療)

神奈川新聞「教えて!ドクターQ&A」2020.10.20掲載

Q. 下肢静脈瘤(りゅう)と診断されて、レーザー手術を勧められましたが、不安です。痛みはどのような感じなのでしょうか。もっといい治療はありませんか。

A. 日本における下肢静脈瘤の手術方法はこの10年間で飛躍的に進化しました。古典的な切って取る抜去術から、新しいカテーテルを使ったレーザー、高周波焼灼(しょうしゃく)術が登場しました。普及のスピードも早く、もはや古典的な抜去術が行われることはまれになってきています。カテーテル手術により入院が不要となり、切開創がなくなり、麻酔も簡略化が可能になりました。

 2020年、アメリカから「黒船」がやってきて、新しい進化の大波が訪れました。グルー治療です。グルーとは、いわゆる瞬間接着剤を使用した治療です。これまでと同様のカテーテル治療ですが、レーザーや高周波との違いは熱刺激がないということです。熱刺激がないということは、二つのメリットがあります。痛くないということ、また周囲の組織(リンパ管や神経)への損傷がないということです。この2点は非常に大きな進化です。

 まず、痛くないため麻酔が軽くなります。レーザー、高周波では熱刺激による痛みをコントロールするためにTLA局所麻酔液をカテーテルの周りに注入します。その際に10カ所以上針を刺すのです。そのため、軽度の眠り薬が必要になります。グルー治療では、このTLA局所麻酔が不要になり、眠り薬の量がぐっと少なくなります。このインパクトは大きく、術中の様子ががらっと変わります。また、TLA局所麻酔を打つことで組織が浮腫(むく)んでしまい、静脈瘤が完全に焼けたかどうかの評価が困難になることや、再度の穿刺(せんし)が困難になるといった手術テクニック上の問題も克服されます。つまり、手術がより丁寧で正確にできるようになります。

 また、熱刺激による周囲組織への損傷、炎症がないということは今まで到達困難であった部位へのアプローチが可能になります。ここは危ないから触らないでおきましょうということがなくなり、治療できる範囲が広くなるのです。

 グルー治療は10年前ヨーロッパで始まりました。5年前からアメリカでも使われ始め、全体の2〜3割がグルー治療で行われているようです。少しずつ広まっているようです。日本では私たちは、この治療の使い方、インパクトを学びつつありますが、すぐにこの治療が下肢静脈瘤治療の中心になると考えています。


村山 剛也 (医療法人社団慶博会 理事長)

横浜市出身。1996(平成8)年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学外科学教室助手、東京都済生会中央病院外科、ハーバード大学医学部リサーチフェローを経て、現在医療法人社団慶博会理事長。「日々できるだけ多くの方の診療に現場で臨むことが、自分のミッションだと思ってます」。2018年アメリカ静脈学会American Collegeof Phlebology)にてAbstract Grant Winner賞(特別賞)を受賞。2020年2月新型コロナウイルス感染災害のクルーズ船ダイヤモンドプリンセスにJMAT派遣医として検疫業務に従事。