神奈川新聞「教えて!ドクターQ&A」2017.8.26掲載
Q:60代女性です。下肢静脈瘤(りゅう)と診断されて、手術には至らず、現在弾性ストッキングを着用しています。手術に踏み切るタイミングについて教えてください。
A:手術のタイミングはなかなか難しいテーマです。
まず、「相手を知る」ことが第1歩です。下肢静脈瘤は静脈の血液の流れが滞り、足に古い静脈血がたまってしまう病気で、数年単位でゆっくり進行していきます。古い静脈血は、だるさ、こむら返り、かゆみ、湿疹などをひきおこし、見た目にも血管が浮き出て目立ってきます。さらに進行すると黒い色素沈着がでて、皮膚潰瘍が生じます。また、血栓ができ急激な痛みを感じたり、深い部分の静脈血栓症とも関連することがわかっています。
進行がゆっくりということは、ひどい状態(色素沈着、皮膚潰瘍、血栓)がなければ、少し考える時間的余裕はあるということです。忙しさや気持ちのゆとりなどと相談していきましょう。もちろん、ひどい状態であれば、できるだけ早めに手術を考えた方が良いと思います。しかしながら、下肢静脈瘤はそのまま治ることはなく、いずれは手術が必要になってきます。ひどくなってからでは治療が長引いたり、色素沈着もなかなかとれません。血栓ができると手術の危険度も増してきます。また、進行するほど手術後の再発率も高くなります。安全面やきれいな術後の仕上がりのためには、ひどい状態がおきる前にスムーズに手術が行われるのが望ましいのです。
最後に私の経験をお話しさせてください。15年前のことです。私も下肢静脈瘤を患っておりました。走るのが好きだったのですが、右足のふくらはぎにいつもだるさを抱えていました。少し血管も目立ってきたため、超音波検査を受けたところ、下肢静脈瘤と診断されました。しかし仕事も忙しく、なかなか手術に踏み切れず、5年が過ぎたところアメリカに留学が決まり、その直前に思いきって手術を受けることにしました。当時はまだレーザー手術はなく古典的なストリッピング(静脈抜去術)を上肢の先生にお願いしました。静脈麻酔でいつ始まっていつ終わったのかも覚えていません。30分くらいの手術だったそうです。2日目少しひきつりを感じるくらいで立ち仕事にも支障はありませんでした。10日目からは軽いジョギングをはじめ、1カ月でうそのように足は軽くなっていました。以前はとてもだるかったなと実感し、なぜ5年もあの“悪友”と付き合っていたのだろうと考えていたのを覚えています。
村山 剛也 (医療法人社団慶博会 理事長)
横浜市出身。1996(平成8)年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学外科、東京都済生会中央病院外科、ハーバード大学医学部リサーチフェローを経て、現在医療法人社団慶博会理事長。「日々できるだけ多くの方の診療に現場で臨むことが、自分のミッションだと思ってます」。2018年アメリカ静脈学会(American College ofPhlebology)にてAbstractGrant Winner賞(特別賞)を受賞。