神奈川新聞「教えて!ドクターQ&A」2017.11.14掲載 (2018.2.9再掲)
Q:50代の女性です。10年前に下肢静脈瘤(りゅう)の手術を受けたのですが、再発し、また手術が必要と診断されました。どうして再発するのでしょうか。
A:下肢静脈瘤は手術しても再発することがあります。わたしの経験では、10%弱の方が再発し再手術が必要になります。
そもそも、なぜ再発が起きるのでしょうか。再発原因について考えるということは、なぜ下肢静脈瘤が起きるのか考えることにつながります。
下肢静脈瘤の原因として広く認められているのは、『下行(かこう)説』と呼ばれるものです。静脈には逆流防止弁がついており、上に向かってしか血流が流れないようになっていますが、太ももから爪先の方へ下向きに逆流防止弁が順に壊れていくという考え方です。現在、一般的に行われている手術もこの考え方に沿っています。主に太ももなど上の部分の静脈をレーザーで焼いていく術式です。しかし、この一般的な手術でも治りきらない、再発してしまうなど、治療の難しいケースも少なからず存在します。個人的感想ですが、全体の20%くらいがこういったケースに入ります。
この10数年で、下肢静脈瘤の新しい原因が唱えられはじめています。『上行(じょうこう)説』と呼ばれるものです。足の炎症(ケガや水虫)や内科的疾患(高血圧、糖尿病、心臓弁膜症、がん)何らかの手術など、身体へのストレスシグナルをきっかけとして、動静脈瘻(どうじょうみゃくろう)と呼ばれる動脈と静脈をつなぐ極細の交通血管が拡張発達し、動脈の血液が静脈へ一気に流れ込み川の氾濫のような状態が起こります。静脈が太くなり瘤化(りゅうか)し、その流れが上へ向かって伝わっていくという考え方です。
この考え方に基づいた場合、検査方法、手術方法も少し変わってきます。主に下の部分の静脈をレーザーで焼くことになります。この新しい考え方、手術はまだ確立されたものではなく、今後のさらなる検討が必要ですが、これまで診断、治療の難しかったケースに対応できるようになる可能性があります。また、しびれ、むくみ、リンパ浮腫との関連性についても、検討されはじめています。
村山 剛也 (医療法人社団慶博会 理事長)
横浜市出身。1996(平成8)年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学外科、東京都済生会中央病院外科、ハーバード大学医学部リサーチフェローを経て、現在医療法人社団慶博会理事長。「日々できるだけ多くの方の診療に現場で臨むことが、自分のミッションだと思ってます」。2018年アメリカ静脈学会(American College ofPhlebology)にてAbstractGrant Winner賞(特別賞)を受賞。