神奈川新聞「教えて!ドクターQ&A」2019.2.26掲載
Q:60歳女性です。数年前に全身麻酔の手術を受けました。それ以来、両足がむくみだし、いろいろな医療機関で静脈に逆流や血栓は起きていないが、治療は圧迫しかないといわれました。いったい足に何が起きているのでしょうか?
A:足のむくみの病態には、どうやら動静脈瘻(ろう)が関係しているらしいと最近いわれ始めています。動静脈瘻とは、動脈と静脈をつなぐ細いトンネルです。生理的に備わっているもので、何らかの刺激やストレスにより拡張し、動脈の血流が静脈へと急激に流入し、静脈の血流が川の氾濫のように増します。静脈の血管壁は元来薄いので、また局所的な炎症トリガーにより血管透過性が亢進(こうしん)し、静脈壁の周囲ににじみ出しによるむくみや炎症が生じます。また、血管拡張により逆流防止弁の距離が届かなくなり逆流現象が生じたりもします。この段階が下肢静脈瘤(りゅう)です。リンパ浮腫も下肢静脈瘤も、動静脈瘻のさまざまな表現型のひとつに過ぎないのではないだろうかということです。元をたどれば、原因は一つなのかもしれません。
では、動静脈瘻はどこにあるのでしょうか。私の経験では膝から下、特に足首以下に存在することが多いようです。足首以下に存在する割合は、95%です。静脈の血流は超音波では、通常ゆるやかな流れとして検出されますが、動静脈瘻の影響を受けるとドクドクと拍動する過剰な流れが検出されます。流れる量は症状のない方の3〜10倍となります。こうした過剰な流れに、動脈に比べて薄い静脈の壁は耐えられません。
治療は、従来の包帯やストッキングによる圧迫以外に、この静脈血管内の過剰な流れやにじみ出しをコントロールすることが重要です。セレスタミンというもともとじんましんやアレルギーに効く内服薬がこの病態に有効なことがわかっており、臨床現場ではよく使われます。これは、ステロイドとH1受容体と呼ばれるアレルギー関連の細胞構造を阻害する成分の合剤です。なぜ効くのかはわかっておりません。ただ、経験的に効くことが知られております。また、ある程度以上の激しい流れは、内服薬や圧迫では抑えきれずレーザー治療が必要になることもあります。静脈にカテーテルを挿入し、血管の内側からレーザーの熱で焼灼(しゃく)し過剰な血流の通り道を焼きつぶしてしまうのです。日帰り手術で針を使っていくので切り傷はつきません。薬や圧迫治療が無効だった方の90%が手術で改善するというデータがあります。
こうした、超音波での検査、カテーテル手術が今後むくみの治療の新しい方法となっていく可能性があります。
村山 剛也 (医療法人社団慶博会 理事長)
横浜市出身。1996(平成8)年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学外科、東京都済生会中央病院外科、ハーバード大学医学部リサーチフェローを経て、現在医療法人社団慶博会理事長。「日々できるだけ多くの方の診療に現場で臨むことが、自分のミッションだと思ってます」。2018年アメリカ静脈学会(American College ofPhlebology)にてAbstractGrant Winner賞(特別賞)を受賞。