神奈川新聞「教えて!ドクターQ&A」2019.5.15掲載
Q:60歳女性です。数年前に全身麻酔の手術を受けました。それ以来、両足がむくみだし、いろいろな医療機関で静脈に逆流や血栓は起きていない、治療は圧迫しかないと言われました。いったい足に何がおきているのでしょうか?(その2)
A: 足のむくみの病態には、どうやら動静脈瘻が関係しているらしいと学会で、いわれはじめています。動静脈瘻とは、動脈と静脈をつなぐ細いトンネルです。生理的に備わってるもので、何らかの刺激やストレスにより拡張し、動脈の血流が静脈へと急激に流入し、静脈の血流が川の氾濫のように増します。静脈の血管壁は元来薄いので、また局所的な炎症トリガーにより血管透過性が亢進し、静脈壁の周囲に滲み出しによるむくみや炎症が生じます。また、血管拡張により逆流防止弁の距離がとどかなくなり逆流現象が生じたりもします。この段階が下肢静脈瘤です。リンパ浮腫も下肢静脈瘤も、動静脈瘻の様々な表現型のひとつに過ぎないのではないだろうかということです。元をたどれば、原因はひとつなのかもしれません。
では、動静脈瘻はどこにあるのでしょうか。私の経験では膝から下、特に足首以下に存在することが多いようです。足首以下に存在する割合は、95%です。静脈の血流は超音波では、通常ゆるやかな流れとして検出されますが、動静脈瘻の影響を受けるとドクドクと拍動する過剰な流れが検出されます。流れる量は症状のないかたの3~10倍となります。こうした過剰な流れに、動脈に比べて薄い静脈の壁は耐えられません。
動静脈瘻は、さまざまなストレスにより活性化します。甲状腺疾患、自律神経失調症、高血圧や糖尿の悪化、怪我、水虫などの足の感染症、膝関節炎、お腹の手術、抗がん剤、疲れ、不眠などなど。いろいろな刺激によるストレスホルモンや自律神経のアンバランスがきっかけとなり、動静脈瘻が開き激しい静脈血流が生じます。この状態が慢性化していくと腫れや浮腫みにつながっていくのだろうと考えられています。実際に、超音波検査で、痛みやだるさを感じている部位に一致して、激しい流れの静脈の周囲に液体が滲みだしているのが観察されます。また、当院の150名のかたの後ろ向き調査では、逆に動静脈瘻の方たちの90%に、何らかの手術、怪我、内科的疾患などのバックグラウンドがありました。
足の浮腫みがあり、なんらかの背景となる既往歴があるかたは、こうした静脈血流のチェックとともに、専門単科外来ではなく総合的診察を受けていくのが望ましいと思われます。
村山 剛也 (医療法人社団慶博会 理事長)
横浜市出身。1996(平成8)年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学外科、東京都済生会中央病院外科、ハーバード大学医学部リサーチフェローを経て、現在医療法人社団慶博会理事長。「日々できるだけ多くの方の診療に現場で臨むことが、自分のミッションだと思ってます」。2018年アメリカ静脈学会(American College ofPhlebology)にてAbstractGrant Winner賞(特別賞)を受賞。